あの頃、惑星シーンはこんなに平和ではなかった。
高度に発達した独自の科学技術は、常に他星の標的となり、戦は絶えなかった。
信じる神も指導者も持たぬシーンの民は、混乱のままに他星との抗争を繰り返していた。
ジャックは或る日、ふらりと戦場に現れ、その強さはすぐさま人口に膾炙した。
無謀なまでの戦い方は、己を省みず星を守る者として、民はこぞってジャックを讃えた。
「・・・片付いたな。無事だったか、ジャック」
「ベルフェ・・」
「お前、無傷かよ。・・・ちぇっ、信じらんねー奴」
「逃げ回ってたのさ」
「嘘つけ。真っ先に、敵のド真ん中に突っ込んでくくせに」
「お互い様だろう。・・・なんだ、やられたか?」
「ふん、大したことねぇ」
「・・・あまり無茶な戦いをするな。万一のことがあればどうする」
「・・・べつに・・。どうだっていい」
「失うモンなんか何もねぇし・・・。いつ死んだって構わねぇさ」
噂では、ジャックは「相棒を失った」のだと聞いた。
時折見せた虚ろな目は、そのせいだったのかもしれないが、ジャックは何も語らなかった。
奴の強さは正義や勇気ではなく、絶望のような虚無からくるものだと、
シーンの民は知る由も無かった。
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