「こんなところで遭うなんて、奇遇だねぇ。グレンに呼ばれてたの?」
「ええ、そうです」
「自分のために、弾きに来いって?」
「・・・・・
まあ、そうですね。 たいへん光栄なことです」
「偉そうに呼びつけてばかりだよね。自分から来いって、言ってやりなよ」
「ふふ・・・。あの方にそんな口をきくのは、貴方くらいですよ、エミール」
「そうかい? 君の兄上殿は、はっきり言ったそうじゃないか」
「・・・・・あれは只の無礼者です。貴方とは違いますよ」
「あ・・、済まない。余計なこと言ったよね」
「気になさらないでください。兄の愚行は、皆の知るところですから」
「・・・・君は兄上のことになると厳しいね。
いろいろとすれ違いはあったんだと思うけど・・・そう嫌ってやるものじゃないよ。
・・・私ならきっと、とても悲しいからね」
「・・・・そうですね、エミール。
申し訳有りません、私の態度に気を使わせてしまったようですね。
お詫びにどうでしょう、一曲聴いて帰りませんか?」
「ここで?」
「ええ、今ここで」
「私のために弾いてくれるのかい?
なんだか、思わぬ得をしてしまったようだねぇ」
「ご希望の曲があれば、お伺いしますよ」
「うん、それじゃあね・・・・」
皆、貴方のことを気にかけていますよ、ユリエン。
・・・あなたはきっと、誰のことも憶えていないでしょうのに。
モドル